6月某日、地球の上の東京のあたり。
仕事のご縁で初めて訪れた町――西府(にしふ)。
空は水色で、もう夏といっていい強い日差しが降りそそいでいた。
この地名を初めて見たとき、どう読むのだろうと首をかしげた。「さいふ?」
「にしふ」と読むのが正解だ。府中市の西側という意味でそのまま「にしふ」と読む。
待ち合わせ時刻よりずいぶん早く着いたので、駅から続く歩道橋を降りたところにある緑道――市川緑道――に涼を求めて入ってみた。
河童に出会った、初夏の西府で
緑道を歩きだしてすぐ、川の中に目をひくものがあった。浅い水の流れの中に小さな河童がいた。
(か、河童だ・・・)
苔むした石のような肌に、なんともいえない表情を浮かべている。可愛いと呼ぶにはちょっと哀れで、哀れと呼ぶには少し滑稽な感じで、私はくすっと笑ってしまった。
河童の像との出会いで、一瞬で私の童心は呼び覚まされた。




河童なにさま、かっぱさま♪
『かっぱなにさま?かっぱさま!』
かっぱ! かっぱっぱ!
かっぱ なにさま? かっぱさま!
かっぱ なにさま? かっぱさま!
おれたち かっぱにゃ さらがある
おみずが たっぷり はいってる
みずも したたる いいかっぱ
かっぱは きれい きれいは かっぱ
かっぱ なにさま?
かっぱ なにさま?
かっぱさま!
INSTAGRAMに同じ写真をアップロードした時にこの曲を見つけたのだが、調べてみたところもともとは杉田あきひろとつのだりょうこによる曲で、NHKの「おかあさんといっしょ」で放送されたものだとか。
懐かしい!なんてナンセンスで楽しい曲なんだろう、そして哲学的でもある。
「河童って何様?」考えてみると沼のように深い問いではないか。なぜここに? 河童像の謎
「なぜ西府に河童の像があるのだろう?」そんな疑問が頭をよぎり、いくつか調べてみた。
しかし、西府にまつわる河童伝説らしきものは見つからなかった。
水があれば、そこに河童がいる。それでいいではないかと自分を納得させた。
川のほとり、風の通り道、そんな場所に“在る”河童像”。
妖怪の存在に理由は必要ない。ただそこにいて、世界と調和している。ちなみに、府中市の鳥は「ひばり」。
無言の河童像と、ひばりの高らかな声。どちらもこの町の空気によく似合っている。運命の書『河童大百科』との遭遇
いつもこのブログを書く時は、その土地やそこにあるパブリックアートを調べて書くのだが、今回ばかりは「河童」そのものに心をつかまれてしまった。私の中に突然起こった河童フィーバ―。
そして、ネットで検索しているうちについに運命の書に出会ってしまった・・・。
水木しげる『河童大百科』!
最近は電子書籍ばかりの私も、このカラーの表紙を紙で拝みたく、アマゾンで紙の書籍を購入した。ページをめくる指先の感触、インクの匂い。
そして届いた大百科、絵も文章も底なしの魅力を放っていた。
そこに描かれていたのは、ただの“妖怪”ではなく、「人間の世界と隣り合って生きる存在」だった。写真『河童大百科』小学館 表紙 写真『河童大百科』より
尻子玉と、河童の王国
河童は妖怪、さすがに怖い話も沢山のっている。河童の指はするどく尖っているそうで、それは人間の尻子玉(しりこだま)を抜くのにつごうがよいからだそう。尻子玉とは肛門内にある架空の臓器で、人はこれを抜かれると死んだり、力が抜けたりするのだとか。
人の肝らしい。
冬になると山の河童学校ではつぎのようなことを教えられるそうだ。
- 姿の消しかた、化けかた
- 相撲のとりかた
- 馬の引きかた
- 尻子玉のとりかた
- 骨をつなぐ法
- 猿と出会わない法
- 河童文字のつくりかた
- 詫び証文の書きかた
- 河童膏のつくりかた
- キュウリ、ナス、ヒョウタンのじょうずな料理法
- 河童みそのつくりかた
- 不思議玉のつくりかた
- 食器のつくりかたと貸しかた
- 税金(尻子玉)のおさめかた
- 神さまとしてのまつられかた
『河童大百科』より
税金(尻子玉)のおさめかたとあるが、これは河童たちが河童の王に納めるもので、河童の王たちは大王である龍神に尻子玉をおさめるそう。
人間の大事なところが税金として上納されていたなんて!
河童界に税金があったとは。
生き物というのは、どんな世界でも“仕組み”をつくりたがるものらしい。
河童の戒め
西府について調べようと思っていたのに、すっかり河童のとりこになり、河童調べの機会になってしまった。
それにしても、妖怪とはなんて面白いのか。
いや、河童とはなんて奇妙で、愛らしいのか。
水なしでは生きられない人間のそばには、昔から川の妖怪河童がぴたりと近くにい続けてきたのだろう。
河童の学校に、河童の税金。河童みそに、詫び証文。
河童界はわれわれ人間界を映す鏡であり、そう考えると、あの可愛いような、情けないような河童の表情は、子供の頃の私に似てる??
いや、大人になった今でも、河童みたいな表情を浮かべていることがあるかもしれない。
河童はこの地球の上で生きる私の、私たちのもうひとつの姿なのだ!!
河童、万歳!











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