[彫刻の森美術館①] 神々に近い場所~『人とペガサス』他~

彫刻の森美術館 神々に近い場所~『人とペガサス』他~ BLOG

箱根の山の中に、青い人とペガサスが現れる。
芸術は神の領域と言われるが、まさに神技。
彫刻の森は芸術の本質に直に触れることができる場所だ。

『人とペガサス』カール・ミレス

1月某日、地球の上の東京のあたりは雪こそ降っていないが、空の色が凍てついていた。外へ出るのも億劫になりそうなこの日、箱根湯本まで足を伸ばしてきた。

昨夏から年末にかけて参加したプロジェクトの疲れが、未だ取れていない気がしていていた。まだ疲れをひきづってるのかと自分を責める声が聞こえてくるが、それこそが疲れている証拠。動いている間は忙しさと緊張感で乗り切れるが、終わった後にどっと疲れがくるものだ。そんな時は自分を責めずに労るのが正解。

そうした時に遊びに行く場所がいくつかあり、その一つが箱根湯本の日帰り温泉「箱根湯寮」だ。露天風呂やロウリュウサービスはもちろん、大好きな小田急ロマンスカーに乗って箱根へ向かうひとときも心をくつろがせてくれる。

この日も温泉が目当てだった。

箱根湯本駅に降り立つと、いつものように彫刻の森美術館の案内が目に入った。
行ってみたいと思いつつ、まだ一度も訪れたことがなかった。箱根湯本から彫刻の森までは箱根登山鉄道で約40分。世田谷から箱根湯本まで約2時間かかることもあり、これまではいつも湯本止まりだった。

しかしこの日は、ふっと心が動いて「行ってみよう」と体が楽に動いた。

そうして私は箱根登山鉄道に乗り換え、彫刻の森美術館へ向かった。

箱根 彫刻の森美術館

彫刻の森美術館は日本発の日本初の野外美術館で、敷地面積は約7万平方メートルと広く、芝生の上に彫刻が設置された彫刻庭園だ。環境芸術事業にも取り組んでおり、丸の内ストリートギャラリーだけではなく、全国の市町村へ彫刻やモニュメントの設置、彫刻作品の貸し出し等を行っている。

野外展示場の他、ピカソ館をふくめて4つの室内展示場があり、一日かけてもすべて観てまわるのは難しそうだ。

この日は野外展示場の作品を中心に観てまわった。iPhoneのバッテリがある限り写真を写してきたので紹介する。

箱根 彫刻の森美術館HP
https://www.hakone-oam.or.jp/


※写真に添えられた説明書きは作品プレートからの転記です

彫刻の森美術館『とらわれのアクション』アリスティド・マイヨール

『とらわれのアクション』アリスティド・マイヨール

アリスティド・マイヨール
Aristide Maillol (French)
1861–1944
とらわれのアクション
Action Enchained
1906

ブロンズ
bronze

フランスの社会主義者ルイ・オーギュスト・ブランキの記念像です。
長い獄中生活を送った革命家の、自由への切望を表現しています。

Created as a memorial to the French socialist activist, Louis Auguste Blanqui, a revolutionary who spent many years in prison, this statue represents a yearning for freedom.

彫刻の森美術館『Tree Man』岡本 太郎

『Tree Man』岡本 太郎

岡本 太郎
Taro Okamoto (Japanese)
1911–1996

樹人
Tree Man
1971

FRP(繊維強化プラスチック)、塗料
FRP, paint

生命力や生き生きとした表現を求め、自由奔放に
膨張し続けるという作者の芸術観が表れています。

Creating a dynamic expression of life, this work sums up the artist’s outlook on art, which he believed should be free to expand at will.

彫刻の森美術館『戦士』マリノ・マリーニ

『戦士』マリノ・マリーニ

マリノ・マリーニ(イタリア
Marino Marini (Italian)
1901–1980

戦士
The Warrior
1959–60

ブロンズ
bronze

力尽き倒れかかった馬と騎士は、両者の区別がつかない、ひとつの塊と化しています。その悲劇的な姿は絶望を表しています。

Expending the last vestiges of their strength, both rider and horse collapse to the ground where they merge to create a single mass. Their form manifests an image of despair.

彫刻の森美術館『弓を引くヘラクレス―大』エミール=アントワーヌ・ブールデル
彫刻の森美術館『弓を引くヘラクレス―大』エミール=アントワーヌ・ブールデル
彫刻の森美術館『弓を引くヘラクレス―大』エミール=アントワーヌ・ブールデル

『弓を引くヘラクレス―大』エミール=アントワーヌ・ブールデル

エミール=アントワーヌ・ブールデル(フランス)
Émile-Antoine Bourdelle (French)
1861–1929

弓を引くヘラクレス―大
Hercules the Archer (large version)
1909

ブロンズ
bronze

ギリシャ神話の英雄ヘラクレスが、ステュンファロス湖畔の怪鳥を
今まさに射止めようとする瞬間を表現した作品です。

This work depicts the moment that the hero of Greek mythology draws his bow to drive away the man-eating birds that haunted Lake Stymphalia.

『人とペガサス』カール・ミレス

彫刻の森美術館『人とペガサス』カール・ミレス
彫刻の森美術館『人とペガサス』カール・ミレス
彫刻の森美術館『人とペガサス』カール・ミレス

カール・ミレス(スウェーデンーアメリカ)
Carl Milles (Swedish / American)

1875–1955

人とペガサス
Man and Pegasus

1949

ブロンズ
bronze

ギリシャ神話の英雄ベレロフォンが天馬ペガサスに乗って、怪物キマイラの退治に向かう勇壮な場面を表わしています。

Based on the story of the Greek hero Bellerophon, who rode the winged horse, Pegasus, as he set out to vanquish the monster Chimera.
It presents a soul-stirring image.


彫刻の森美術館『衣を脱ぐ』ジャコモ・マンズー

『衣を脱ぐ』ジャコモ・マンズー

ジャコモ・マンズー(イタリア)
Giacomo Manzù (Italian)
1908–1991

衣を脱ぐ―大
Grand Striptase
1967

ブロンズ
bronze

伸びやかな曲線のもとで衣を脱ぎ捨てた女性の身体を、衣服を脱ぐことから解放される美を表現した作品です。

Depicting a woman about to remove her clothes, this work captures the essence of liberation in the female form through unencumbered and well-proportioned lines.

『嘆きの天使』クロード・ラランヌ

フランソワ=ザビエ、クロード・ラランヌ
François-Xavier and Claude Lalanne

フランソワ=ザビエ・ラランヌ(フランス)
François-Xavier Lalanne (French)
1927–2008

クロード・ラランヌ(フランス)
Claude Lalanne (French)
1925–2019

嘆きの天使
The Weeper
1986

トラニ石
Trani stone

水面に映った自分の姿に恋をして水仙の花に生まれ変わったという、ギリシャ神話の青年ナルシスのように水面に頬をよせる天使。かなわぬ恋に涙は途絶えることはありませんが、その顔はどこか微笑んでいるようにも見えます。見る者を空想の世界に誘う作品です。

Like the young man, Narcissus, from Greek mythology who fell in love with his own reflection in the water and was reborn as a flower of the same name, this angel rests its cheek next the surface of the water. Despite shedding endless tears for unrequited love, a smile seems to play on its lips, the work inviting the viewer into a world of fantasy.


芸術とは人が自らの限界を越えようとする衝動のかたち

彫刻の森美術館の野外展示場に足を踏み入れた時、広大な空間に点在する巨大な彫刻たちの、圧倒的な存在感とパワーに思わず息をのんだ。こんな山奥に神々が歩いている場所があったのだと、偉大な芸術作品が神と切り離せないことを感じた。
中でも空にむかって聳える『人とペガサス』を見た時、これほどのスケールの作品が作られた工程と彫刻家が作品にかける情熱を想像し、心を鷲づかみにされた。

大きな作品を作るには合理的な設計が必要なことはもちろんだが、それだけではきっと完成しない。
彫刻家が作品と向かいあいながら幾度となく神と交信をとったイメージが頭に浮かぶ。素材と向き合いながら、何度も「形の向こう側」に手を伸ばしたのではないか。見えない何かに問いかけ、応答を待ち、また削り、また応答を待つ。

芸術、すなわち神に人生を捧げた彫刻家の崇高な魂と渾身が作品を完成に導くのだろう。

彫刻の森美術館『人とペガサス』カール・ミレス

芸術とは技術の結晶でありながら、 その核心において、人が自らの限界を越えようとする衝動のかたちなのだと思う。
だからこそ、これらの作品には、単なる造形を超えた気配が宿る。

天空を飛ぶ人とペガサスの姿は、彫刻家自身の祈りであり、その生涯をかけた問いの形なのかもしれない。

彫刻の森美術館②に続く

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